【フランス生活】「欧州文化遺産の日」からフランスの文化への思いを垣間見る

Last Updated on 2025年10月3日

毎年9月の第3週末、フランスでは「欧州文化遺産の日(Journées Européennes du Patrimoine)」というイベントが全国各地で開催されます。

歴史的建造物や美術館が無料で開放され、もしくは普段は立ち入ることのできない場所にも足を踏み入れることができる、文化好きにはたまらない2日間です。

今回は、ニース近郊にありながら中世の趣が色濃く残る「オー・ド・カーニュ(Haut-de-Cagnes)」という地区で行われたガイドツアーに参加し、フランス文化の奥深さに触れてきました。

欧州文化遺産の日とは

「欧州文化遺産の日」は、1984年にフランス文化省の提唱で始まった文化イベントです。文化遺産を守る最良の方法は、それを多くの人に知ってもらい、触れてもらうことという理念で実施されています。

公式サイトより引用

この取り組みは瞬く間にヨーロッパ全域に広がり、現在では約50か国が参加し、毎年約3,000万人がヨーロッパ各地の歴史的建造物や文化施設を訪れているようです。

フランス国内では国立美術館や市庁舎、修道院、劇場、さらには普段は非公開の個人邸宅等が対象となり、文化の多様性や奥行きを感じられる貴重な機会です。

イベント期間中は専門ガイドによるツアーやテーマ別の街歩き、職人技の実演(陶芸やステンドグラスなど)、演劇やクラシック音楽のコンサートなど、地域によって多彩なメニューが用意されています。

これらの催しは子どもから高齢者まで幅広い世代に向けて企画されており、文化を「学びながら楽しむ」ことができるのが特徴です。教育的な意味合いが強いイベントも少なくなく、学校や地域団体が積極的に参加する姿も見られます。

中世の村 Haut-de-Cagnes を歩く

今回私が訪れたのは、ニースの空港付近から公共バスで30分ほどの場所にある「カーニュ=シュル=メール(Cagnes-sur-Mer)、以下「カーニュ」とします)」という町です。

その高台に位置する「オー・ド・カーニュ」は、中世の面影を色濃く残す美しい地域です。

集合場所は村のシンボル「グリマルディ城(Château Grimaldi)」。ガイドツアーは朝10時から始まり、事前予約は不要で参加費無料。通常は有料の城内にも入れるという、文化遺産の日ならではの特典付きです。

公共バスを降りてから城までは、急な坂道を登っていきます。

バス停付近から高台を仰ぐ
(お城はヤシの木に隠れています)

石畳の小道は狭く曲がりくねり、両側には石造りの家々が並び、窓辺には色とりどりの花が咲いています。

なかなかの急勾配

頭上にはアーチ状の通路や石の天井が続き、まるで中世の時代にタイムスリップしたかのような感覚に包まれました。

写真には映らない魅力が満載です

坂を登りきると、目の前には地中海とアルプス山脈を望む絶景が広がります。

ガイドツアーの集合場所。残念ながら写真には収まっていませんが、海も見渡せました

澄んだ空気の中、遠くに広がる青い海と、山々の稜線が織りなす風景は、まるで絵画のよう。多くの芸術家を引き付ける理由がよくわかりました。

歴史を感じるガイドツアー

ツアーを案内してくれたのは、ベレー帽をかぶったユーモアたっぷりの地元のガイドさん。グリマルディ城の歴史や村の成り立ちについて、軽妙な語り口で紹介してくれました。

城は14世紀にグリマルディ家というイタリア貴族によって建てられました。

当初は要塞とし手の役割ゆえに高台に建てられました。後に同家の居城として使われたそうです。

現在はカーニュが所有し、公立の美術館として一般公開されており、藤田嗣治やデュフィといった有名な画家の作品の常設展の他、地元の画家等の企画展まで、幅広く展示されています。

藤田嗣治含む多くの画家が描いたある女性の作品を集めた部屋。どんなに素敵な方だったのだろう。

参加者は地元の家族連れから外国人観光客までさまざま。最初は20人ほどでしたが、城内に入るとどこからともなく人が増え、逆に最初にいた人がいつの間にかいなくなっているという、自由度高いツアーでした。フランスらしい「ゆるさ」と「自由さ」が感じられ、肩肘張らずに文化に触れられるのが魅力に感じました。

城の頂上からニース方面を仰ぐ
城の頂上から内陸方面を仰ぐ

文化遺産の日のイベントは国や地方の行政が主催していることが多く、観光での町おこしの要素もあるかもしれませんが、単なる観光ではなく、文化を体験する学びの場の提供を目的としたものです。歴史的建物を眺めるだけでなく、その背景にある物語や人々の暮らしに触れることで、より深い理解が得られます。

文化を守るということ

フランスの文化政策は「文化はすべての人のもの」という理念に基づいています。今回、こうしたイベントを通じ、フランスがいかに文化を大切にし、それを次世代へと受け継ごうとしているかを肌で感じることができました。

町中にはカーニュの作品と解説が至る所に

歴史的建造物や美術館がただ保存されるだけでなく、一般の人々が気軽に足を運べるよう開かれている。また、文化は芸術に限らず、日常の中にあるもの。このような考え方が、フランスの街並みや人々の暮らしに自然と溶け込んでいるように感じます。

人々の暮らしに猫も溶け込んでいます

参考情報

欧州文化遺産の日について

カーニュ=シュル=メールについて

今回はお城と城下町のガイドに参加しましたが、この町はニースのプロムナード・デ・ザングレ(海沿いの遊歩道)の延長にあり、また画家のルノワールが晩年を過ごした場所としても有名です。ニースの市街地からは約10㎞、電車でもバスでもアクセスが良く、見どころは半日~1日程度で回れる素敵なところです。

ニースからのアクセス

ニースからこの町へは電車またはバスを利用できます。主な交通手段をご紹介します。

電車(TER)

カーニュの町中には2つのSNCF駅があります。

  • Gare de Cagnes-sur-Mer(中心街やお城のあるHaut-de-Cagnes方面)
  • Gare du Cros-de-Cagnes(海辺方面)

これらの駅は、ニースやアンティーブのTGV駅から出ているTER(地方列車)で簡単にアクセスできます。電車は本数も多く、時間帯によっては10〜20分間隔で運行されているため、非常に便利です。

駅からHaut-de-Cagnesまでは徒歩でも行けますが、坂道が急なので、以下に紹介するバスや無料シャトルの利用がおすすめです。

バス

ニース西部にある公園Parc Phoenix(パルク・フェニックス)付近のバス停から出ているLigne 9(9番線)がおすすめです。

この路線はニースからカーニュの中心部を結ぶ主要ルートで、観光にも日常の移動にも使いやすいです。

町中を走る無料シャトルバス(Navettes touristiques gratuites)

カーニュでは、観光客向けに無料のシャトルバスが運行されています。

  • Navette gratuite n°44:中心街(Square Bourdet)からHaut-de-Cagnesまで毎日運行しています。この路線は便数は少ないものの、急な坂道を避けて村の高台まで直接アクセスできるため、徒歩が難しい方にもおすすめです。約20分間隔で運行されており、グリマルディ城や村のレストラン、美術館へのアクセスに最適です。
  • Navette gratuite n°45:中心街(Square Bourdet)から海辺(Cros-de-Cagnes)まで。夏季(7月〜8月)は毎日10時〜20時に連続運行。ビーチやマリンスポーツ施設、海辺のレストランへのアクセスに便利です。

観光局公式サイト

ご感想や、皆さんが訪れた文化遺産の日の体験もぜひコメントで教えてください。次回の記事もどうぞお楽しみに!

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