【MBA予習】『バリュエーションの教科書』森生明

Last Updated on 2025年8月7日

来月から始まるMBA留学を前に、さっそく試練が訪れました。

入学予定のビジネススクールから「最初の授業はファイナンスとアカウンティングから」との連絡があり、ハーバードビジネススクールのオンラインコンテンツでの予習を指示されたのですが、いかんせん英語での理解がなかなか進みません。

MBAの第一歩でいきなりつまづきかけるという幸先の悪い現実に直面し、まずは日本語で基礎知識をインプットしようと、MBAやビジネス関連の本を読み漁っています(正確にはオーディブルで耳音読)。

そんな中、たまたま目にしたMBA卒業生のブログで、ファイナンスの必読書として紹介されていたのが、この『バリュエーションの教科書』でした。

バリュエーションの教科書: 企業価値・M&Aの本質と実務 

森生 明 (著), 東洋経済新報社

株式投資から企業IR、M&A、事業再生、「会社は誰のものか?」「金融資本主義の功罪」の議論まで――。M&A、ファイナンスの最前線で活躍する実務家から絶大な評価を受ける著者による最新作。難解な金融・ファイナンスの世界を「実務現場感覚」でシンプルに説き明かす。ファイナンスは積み上げ型で学ぶより俯瞰して理解せよというスタンスの下、基本から最先端の理論までを網羅した新しいテキスト。

今回は、この本を読んだ感想を、私と同じようにファイナンスの学びを深めたいビジネスマンの視点でお届けします。

MBA理論と日本の現実を結びつけるバリュエーション入門書

本書は、前半と後半で大きく構成が分かれています。

前半は、ビジネススクールで学ぶであろうファイナンスの理論、特に企業価値評価(バリュエーション)の手法について、体系的に解説されています。将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く、DCF法をはじめとする様々な公式や考え方が網羅されており、まさに「教科書」と呼ぶにふさわしい内容です。

そして後半は、日本経済やファイナンス領域で豊富な経験を持つ著者ならではの視点が展開されます。日本の市場、投資家、経営者の実態を踏まえ、前半で解説された理論がどのように現実世界で機能し、あるいは機能しないのか、著者の哲学が深く掘り下げられています。

理論と実務、海外と日本の状況を比較しながら、「日本の企業価値はどうあるべきか」という本質的な問いを投げかけてくる、骨太な一冊です。

読後感 初心者が苦戦した点と学び

正直な感想からお伝えすると、私のようなファイナンス初心者が一度で完璧に理解するのは非常に難しい内容だと感じました。

特にDCF法などの公式や計算方法に関する部分は、まさに馬耳東風……。頭に蓄積されることなく、さらさらと流れていってしまったのが現実です。おそらくこの公式の部分こそが、MBAの授業では最も重要になってくるのだろうと、身の引き締まる思いがしました。

しかし、それでもこの本を読んでよかったと強く思います。なぜなら、投資家や経営者として「会社をどう見るべきか」という視点のヒントを多く得られたからです。

本書では、次のような「比較」が繰り返し行われます。

  • 日本の市場とアメリカの市場の違い
  • 日本の投資家とアメリカの投資家の違い
  • ファイナンスの理論と、現実世界での乖離

こうした洞察は、実務経験者でなければ語れない貴重な知見です。企業というものは数字だけでは測れない「生き物」であり、働く人々や彼らのアイデアがあってこそ、社会に価値を提供できるという考え方にも深く共感しました。

MBA留学と「自分ごと」としてのファイナンス

最近、街中では「NISAで投資信託を」といった広告をよく目にします。「老後の蓄えは自分で」「貯蓄から投資へ」という考え方が広まり、私自身も例にもれずNISAを利用しています。

しかし、株に関する詳しい知識もないまま、なんとなく「アメリカ株の投資信託」に落ち着いたのが実情です。本書の著者からすれば、このような感覚的な投資行動は、まさに烏合の衆と映るのかもしれません。表面的な理解しかなく、大きな利益を手にすることはできないと、最近の自分の行動を反省するきっかけになりました。

今回の読書を通じて、あらためて痛感したのは、いかにファイナンスを自分ごととして捉えられるかという視点の重要性です。

小難しく、退屈に感じてしまう分野でも、それが自分の投資判断や、将来のキャリア、ひいては人生とどう結びつくのかを考えることで、学びへのモチベーションが大きく変わると思います。

MBA留学中も、非居住者としてできる範囲で投資活動を続けたいと考えています(特にフランス版NISAに興味津々)。そして、このブログ運営も、ひとつの会社を経営するような感覚で続けていこうと決意しました。ファイナンスの知識がブログ運営にどう活かされるかはまだ分かりませんが、きっと何かヒントがあるはず。多分…。

おわりに

この本は、初心者がいきなり読むと挫折する可能性もありますが、「理論と現実のギャップ」を理解したいビジネスマンや、私と同じようにMBAでの学びをより深く、実践的にしたいと考える方にとっては、非常に示唆に富んだ一冊です。

MBAの授業で理論を学んだ後、もう一度読み返してみるのが楽しみです。

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