最近、リニューアルを経て再オープンした Bibliothèque Louis Nucéra(ルイ・ヌセラ図書館) を訪れました。
図書館を出て東へ少し歩くと、すぐ近くにまだ新しい広場が広がっています。場所は、図書館から山(北東)側にある Esplanade Francis Giordanです。旧市街の濃密な街並みとも、港の開けた雰囲気とも少し違う、ゆったりとした空気の流れる場所です。
歩いてみると、この界隈が単なる「図書館の周辺」ではなく、ニースの新しい文化エリアとして少しずつ整えられていることが見えてきます。図書館の隣には現在改修中の近・現代美術館 (MAMAC) があり、周辺の歩道や広場も再整備され、街全体が以前よりもひらけた印象になっているとのこと(私は今の状態しか知りませんが……)。

ルイ・ヌセラ図書館はニース市の図書館ネットワークの中核施設。一方でMAMACは、改修工事と都市再編のために休館しており、館外プログラムを続けています。
メイン施設が臨時休業中というこの一帯のおもしろさは、言い換えれば、完成された観光名所というよりも文化施設と公共空間がいままさに育っている途中の風景にあるといえるかもしれません。
旧市街のように長い歴史がそのまま見える場所ではないけれど、図書館、美術館、広場、公園がゆるやかにつながっていて、ニースが「海辺の観光都市」だけではないことを感じさせてくれます。
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Francis Giordan広場
図書館のすぐ隣にある Esplanade Francis Giordan は、Acropolis に近く、旧市街と港の中間あたりに位置しています。観光案内によれば、この広場名の由来となった Francis Giordan は、ニースの公共事業に関わり、とくに Acropolis 建設との関係で知られた人物です。そうした背景を知ると、この場所が単なる休憩スペースではなく、公共施設どうしをつなぐ都市の舞台として整えられてきたのだと感じられます。
図書館の帰り道にふらりと立ち寄っただけでしたが、この広場を歩いていると、ニースの文化が美術館や教会の内部だけでなく、街路や広場のつくり方そのものにも表れているのだと思いました。

若い木々が語る、この地区の「これから」
歩いていて印象的だったのは、植えられている木々がまだとても若いことでした。
幹は細く、どの木も植えられてからまだそれほど年月が経っていない様子です。遊具やベンチも新しく、この公園全体がまだ成長の途中にあるように見えました。

けれど、その「若さ」こそがこの場所の魅力なのかもしれません。
歴史的な街区のように完成された風景ではなく、これから木が育ち、木陰ができ、街の人の使い方が積み重なっていく場所。実際、この一帯は Promenade du Paillon の延伸や周辺再編の文脈の中で整備が進められてきたエリアでもあります。だから、木々がまだ若いということ自体が、この地区がいまも変化の途中にあることをよく物語っているように思いました。
広場の中には、子ども向けのアスレチックのような遊具もあり、地元の家族がゆっくり過ごせる空間になっています。観光客のために作られた「見る場所」というより、まずは生活の中で使われる場所なのだということが、こうした設備からも伝わってきます。
ポタジェのある公共空間
さらにおもしろかったのは、potager(ポタジェ) と呼ばれる小さな菜園スペースがあったことです。

フランスでは、装飾のための花壇だけでなく、野菜や果樹を育てる場所が公共空間の中に取り入れられていることがありますが、ここにもそうした感覚が息づいているようでした。
そのポタジェの中には、花をつけた木が2本植えられていました。遠くから見ると桜のようにも見えましたが、近づくと、どうやらアーモンドか桃の木のようです(訪問したのは3月半ば)。しかも、ひとつはやや濃いピンク、もうひとつは淡いピンク。並んで咲いている姿を見ていると、日本人の私としては思わずお花見の気分になりました。


もちろん、ここに植えられているのは花見のためというより、実がなる木としての意味合いが強いのでしょう。けれど、南仏の青い空の下で見る淡い花はとても春らしく、図書館の帰り道にこんな景色に出会えるのは、なんとも贅沢なことだと思いました。
MAMACが閉まっているからこそ見える風景
このエリアの象徴のひとつである MAMAC(ニース近代・現代美術館) は、残念ながら2024年から現在も休館中、リニューアルオープンは現状後ろ倒しが続いており、2029年の予定のようです。公式サイトによれば、そのあいだは館外プログラムで活動が続いているようです。
そのため、いまこの界隈を歩く体験は、「美術館を見に行く」というより、美術館の不在を含めて、街全体が変わっていく途中を見ることに近いのかもしれません(ポジティブ思考)。
完成された文化地区ではなく、文化地区になろうとしている最中の風景。図書館が再び開き、公園の木がまだ若く、美術館はまだ閉まっている。その少し不安定なバランスが、かえってこの場所を印象深いものにしていました。

文化施設と生活圏が重なっている
この界隈のおもしろさは、文化施設が集まっていることだけではありません。
少し歩くと、アジア系の食品店や日本食レストランもあり、観光客向けに整えられた空間というより、さまざまな背景をもつ人たちの日常が重なっている生活圏でもあることがわかります。


図書館で本を読み、公園を散歩し、必要なら食材店に立ち寄る。
そんなふうに、文化施設と生活の場が近い距離でつながっているところに、私はこの界隈の魅力を感じました。ニースというと、どうしても海辺のプロムナードや旧市街の華やかさに目が向きますが、ここにはそれとは少し違う、暮らしの延長にある文化があります。
旧市街のその先にある、もうひとつのニース
ニースを訪れる人の多くは、まず海を見て、旧市街を歩き、港へ向かうかもしれません。
もちろんそれもこの街の大きな魅力です。けれど、ルイ・ヌセラ図書館やMAMAC周辺の一帯を歩いていると、ニースにはもうひとつ別の顔、市民の生活があることに気づきます。
近未来的な彫刻建築として知られる図書館。
改修中の現代美術館。
新しく整えられた広場と公園。
若い木々、小さなポタジェ、そこで遊ぶ子どもたち。
観光名所というよりは、ニースの日常文化が見える場所といった位置づけです。図書館で少し本を読み、公園を歩き、街の変化を眺める。そんな時間の過ごし方もまた、楽しみ方のひとつだと思います。
もしニース滞在で時間に余裕があれば、旧市街だけでなく、この新しい文化エリアもぜひ歩いてみてください。
季節の花やまだ若い木々を眺めながら歩いていると、この街が過去の美しさだけでなく、これから育っていく風景を持っていることにも気づけるはず。