Last Updated on 2025年9月3日
フランスで留学生活を送る上で欠かせないインフラのひとつが、銀行口座の開設です。
日常的な買い物や家賃の振込は日本のクレジットカードや国際送金サービスでも対応できますが、携帯電話契約や社会保障(Sécurité sociale)の加入に際しフランスの銀行口座情報(RIB)が必要になります。
ところがフランスの銀行は、社会人の場合口座維持費が月7€以上発生します。さらにカードの発行等に時間がかかり、銀行窓口に行かなければならないなど手続きも複雑です。入国してすぐに学校が始まる留学生にとっては、できるだけ早く・安く口座を持てることが大きな安心につながると思います。
私自身、入国してから学校が始まるまでにライフラインを確保すべく、事前にいろいろ調べ、動きました。そこで見つけたのが Nickel(ニケル)という、オンラインの銀行サービスです。
今回はNickelの特徴、口座開設の流れ、注意点を整理してご紹介します。
Contents
Nickelとは
Nickelは2014年にフランスで誕生し、従来の銀行とは異なるネオバンク(néobanque)といわれる決済サービスです。

大手銀行のように店舗を持たず、主にタバコ屋(Tabac)で口座を開設できる点が特徴です。2017年にフランスの大手銀行BNPパリバのグループ会社となり、正式にフランス当局から決済業務の認可を受けています。
近年、フランス国内でネオバンクの利用者は急増しています。2024年12月現在、フランスの代表的なネオバンク、Boursobankのユーザーはフランス国内で約700万人、イギリス初のRevolutの約500万人に続き、Nickelは約400万人のユーザーを有しています。
Nickelの特徴
1 即日発行・即利用可能
従来の銀行のように口座開設に時間かかることや、住所証明・収入証明などの書類を多く求められるといった手間が少なく、即日でカードを発行してもらえるシンプルさが大きな特徴です。具体的にはオンラインで申込んだ後、全国にある指定のタバコ屋(Tabac)でカードとIBAN(口座番号)情報等を受け取り、オンラインで有効化することで利用が可能となります。
2 口座維持手数料が安い
Nickelは口座開設料が 25€、その後の年間維持費も25€と低コストです。大手銀行では、学生に何らかの特典があるかもしれませんが、通常口座維持費は月7〜15€程度かかるのが一般的です。シンプルに「必要最低限のサービスだけで十分」という留学生にとって、経済的な選択肢といえます。
3 基本的な銀行機能は揃っている
Nickelは大手銀行に比べてサービスは限定的ですが、留学生の生活に必要な銀行基本機能は揃っています。例えば、ユーロ圏内でのSEPA送金(家賃や公共料金の振込)は無料で行うことができ、自動引き落とし(prélèvement)にも対応しています。また、専用アプリで残高確認や振込操作が簡単にでき、日常の支払いはマスターカードのデビットカードが利用可能です。生活費の管理に必要な基本機能はしっかりカバーされています。
口座の開設方法
口座の開設は以下のとおりです。
1 アカウント開設
まずはスマートフォンのアプリをインストールし、事前登録を行います。この時点でまだフランスの電話番号を契約しておらず、日本の電話番号を維持していましたが、その番号でも問題なく登録できました。また、登録時には入居するフランスの住所を入力しました。
2 タバコ屋でカード発行
オンラインの手続きが完了したら、Nickelが指定するタバコ屋(Points Nickel)に行きます。グーグルマップでPoints Nickelを検索するとヒットしますが、特にバカンス中の場合、グーグルマップには営業中となっているのに実際は臨時休業だったりすることもあるので要注意です。
タバコ屋でNickelの口座を開きたいことを伝え、アプリの情報やパスポートをレジの店員に提示します。店頭で即座にデビットカードを発行してもらい、その場で現金を入金できます。初回に入金のみ手数料が無料です。
3 カード有効化
カード発行後、スマートフォンにSMSでPIN情報などのカード情報が送信されます。アカウントページに必要に応じて情報を追記すると、カードが有効化され、決済に使えるようになります。

私の場合、追加証明として学生であることの証明書(入学証明書)と税務上の住所(フランスに居住していること)の提示が求められました。
タバコ屋に行く必要があったのでオンラインですべて完結というわけではありませんが、カードとIBANは本当にすぐに発行されました。
Nickelの注意点
1 日本の銀行から直接送金できない
Nickelは正式な銀行ではないので、日本の銀行とのSWIFT送金等には対応していません。そのため、日本からNickel口座に直接送金することはできず、Wiseなどの国際送金サービスを経由する必要があります。留学生が日本から生活費を受け取る際には、追加の送金手数料が発生する点に注意が必要です。
2 現金入金の上限と入金手数料が発生する
Nickelで現金を預け入れる場合、タバコ屋(Point Nickel)等を利用することになります。しかし現金入金には制限があり、30日間で最大950€までしか入金できません。さらに入金時に2%の手数料が発生します(カードの種類をグレードアップすれば無料になります)。そのため、大きな金額を現金で預けたい人や頻繁に現金を扱う人には不向きです。
3 信用面の弱さ
Nickelは正式に認可された決済サービスですが、大手銀行に比べると社会的な信用度は低めです。ネットの情報でしかありませんが、行政手続き等で追加説明が必要になることがあるようです。

開設してたったの数日ですが、携帯電話の契約や入金、カード決済に問題はなく、今のところ不便を感じたことはありません。セキュリテ・ソシアル加入でもNickelのRIBを使いましたが、現在は審査待ちです。
4 提供サービスの制限
Nickelはシンプルなサービスを売りにしているため、一般的な大手銀行にあるサービスが一部利用できません。例えば、クレジットカード(後払い機能付きカード)は発行できず、デビットカードのみの提供です。投資をしたり、融資を受けることもできません。また、フランスではいまだに一部の契約で利用されることのある小切手帳も利用できません。現金入金にも制約があるため、幅広い金融サービスを必要とする人には物足りない部分があります。
まとめ こんな人におすすめ
Nickelは、非常にシンプルで低コストという点が強みです。フランスに到着してすぐに口座情報が必要な方、フランスの口座をあまり使う予定はなく、あまり費用をかけずに日常生活の決済や家賃の振込などの最低限のことができれば十分、というニーズに合致すると思います。
Nickelに限らず、最近はフランスのBoursorama BanqueやHello bank!といったネオバンクで維持費0€・国際利用無料・利息付き口座といった魅力的なオファーが増えています。
一方で、不動産契約や奨学金の受け取りなどで大手銀行口座を指定される場合や、現金を頻繁に扱う必要がある場合には、BNP Paribasなどの大手銀行口座の方が便利です。

ちなみにnickelはフランス語で「ちりひとつない」「ぴかぴかだ」という意味があるようです。