Last Updated on 2025年10月28日
秋休みのボルドー滞在では、フランスの思想家モンテスキュー(Charles-Louis de Secondat, baron de La Brède et de Montesquieu)ゆかりの場所を巡りました。午前はワイナリー Le Château des Fougères (シャトー・デ・フージェール)、午後は Château de La Brède(ラ・ブレード城) を訪問しました。
Contents
午前 Le Château des Fougères Clos Montesquieu 見学&試飲

こちらは2010年までモンテスキューの一族が運営していたワイナリーです。
この日はちょうどPortes Ouvertes en Graves(グラーヴ開放デー)というワインイベントがボルドーのグラーヴ地区全体で行われており、この一環でこのシャトーも特別見学会を実施していました。こちらは毎年このイベント時しかシャトーを公開していないようです。参加できて運が良かったです。
Petit mémo(ワイナリー年表メモ)
- 16世紀ジャンヌ・ダルブレ(アルブレ家)がモンテスキューの祖先ジャン・ド・スゴンダにモンテスキューの地を与える
- 1703年 領地としての記録が残る(モンテスキュー家が管理)
- 1867年モンテスキューの親戚ガストン・ド・モンテスキューが領地を整え、Fougères の名を与えぶどうを植樹
- 1874年 赤40樽・白20樽の生産記録。時代とともに生産量は増減
- 1986年 曾孫のアンリ・ド・モンテスキューが再びワイン造りを本格化
- 2010年 子孫のパリ転居を機に、当初のオーナー・アルブレ家縁のランド県ラブリット市長ドミニク・クチエールに譲渡
ガイドでは、室内のサロンを中心に見学(写真撮影禁止)しました。
モンテスキューが直接ここでワインづくりをしていたわけではありませんが、ガイドを聴き、モンテスキューが政治思想家だけでなく、実業家であり、またこちらグラーヴ(Graves)地区 のワインの名を広めることに尽力していたことを改めて知りました。

この日に味わった3本
見学の後はテイスティングをさせてもらいました。
クラシックの厚み、日常に寄り添う理性、そして今の食卓に似合う軽やかさ。どれも同じ土地の声でありながら、語り口は少しずつ違っていました。テイスティングメモを残します。
La Raison 2018

このシャトー主軸の1本。カベルネ・ソーヴィニョン30%、メルロ70%、熟成期間は14-16カ月
名前のとおり「理性」や「道理」を思わせる、思考に寄り添う一本とでもいいましょうか。2018年は日照がよく、それがが果実に丸みを与え、香りはプラムや黒系ベリーに加え、ハーブのニュアンス。樽感は控えめで、果実味と軽いスパイス、土の気配がします。
味わいはミディアムボディ。ワイナリーの方の説明では、日常の食卓に沿う設計を意識しているとのこと。余韻は赤い果実の酸が軽く残る印象。
Château des Fougères Clos Montesquieu 2012

こちらも主軸の1本。クラシックなキュヴェ。カベルネ・ソーヴィニヨン70%、メルロ30%、14-18か月(新樽30%以上) の樽熟成という造りがそのままグラスに表れて、複雑性を帯びていました。縁にはガーネットのニュアンス。アロマは黒スグリやブラックチェリー、タバコ、杉の香りが少し。時間を置くと乾いたバラやチョコレートの香りが開いていくのを感じました。
口に含むとしっかりした酸、タンニンは細く長い線で舌の脇を撫でていきます。余韻にほのかなビター・チョコ。
2012年ヴィンテージという熟成の時間がもたらす落ち着きがありました。いま飲んで十分に美味しく、これはぜひまた飲みたいと思えるものでした。
Grap’ soif 2024(新キュヴェ)

最後は、2024年ヴィンテージから販売が始まった、現代の空気感を映した軽やかなワインです。ワイナリーの方いわく、いまは時代に合わせた「軽やかさ」を目指したキュヴェの開発にも取り組んでいるとのこと。
名前のGrap’ soifが示す通り、「喉の渇きに寄り添うぶどう」という発想で、果実感を楽しませてくれる、ボルドーワインのイメージとはだいぶ異なる軽やかな1杯です。グラスの色は明るいルビー色。香りはフレッシュなラズベリーなどの赤系果物、そしてほんのりハーブ。このワインの熟成はステンレスタンク主体と説明があり、ピュアな果実感を楽しめました。
口当たりは軽快で、アルコール感は控えめ。試飲でも本当に軽くて飲みやすいという印象です。
帰りに2012年のCHÂTEAU DES FOUGÈRES Clos Montesquieuを購入しました。現地価格でたったの10ユーロ。
午後 Château de La Brède(ラ・ブレード城)のガイドツアー
午後は モンテスキューの生家、ラ・ブレード城 のガイドツアーに参加しました。

広大な敷地にお城(シャトー)があります。お城が建てられたのは13世紀頃。
周辺にはシャトーと呼ばれるワイナリーがあり、素晴らしい建物が佇んでいますが、それらとはまた異なる歴史の重みを感じます。

ガイドははきはきと話すマドモワゼルが担当。
大きな声で体を使って表現していたのが印象的です。

城内の案内では、暖炉や家具、調度から、モンテスキューの生きた時代の上品な生活の手触りを感じました。

思想とテロワール
この日見たのは、権力の分立を説いた哲学者の冷たそうな銅像ではなく、畑の収支や天候に向き合うひとりのvigneron(葡萄栽培・醸造家) の横顔でした。
土地の名を広めること、名声を積み上げることは、理念の推敲と同じく、長い時間の仕事なのだと教えてくれた気がします。

150ヘクタール敷地には、畑や庭園、そしてかつてモンテスキューも関わったふどう畑(現在は松林)が
最後に モンテスキューの言葉、グラーヴ格付け、そしてグラーヴ地区のイベントについて
Je ne sais si mon vin est célèbre grâce à mes écrits ou si mes écrits sont célèbres grâce à mon vin.
——Montesquieu
書物とワイン、どちらがどちらを有名にしたのか。
軽やかなユーモアの奥に、土地に根ざした生の時間へのまなざしがうかがえます。
大人になってからも故郷のラ・ブレードに戻り、畑と書斎を行き来した彼らしい一節だと思いました。
グラーヴの格付について
グラーヴといえば格付を連想される方も多いと思いますが、Château des Fougères – Clos Montesquieu はGraves の格付(Crus Classés de Graves) には含まれていません。
理由は所在地(村)がLa Brède(ラ・ブレード)で、歴史的に格付け対象のシャトーが集中する Pessac-Léognan (ペサック・レオニャン)地区の範囲外にあります。このためここでの「非格付」は品質評価の問題ではなく、制度の成り立ちと地理的射程によるもの、という理解がしっくりきます。
グラーヴ地区の「Graves Portes Ouvertes」イベント
今回の無料見学は、Journées Portes Ouvertes des Graves(グラーヴ開放デー)のプログラムとして実施されていたものでした。

本当はラ・ブレード城に早めに入って敷地内を散策しようと思ったものの、扉が閉じていて入場できず。
せっかくなので近くのワイナリーに行ってみようということで、たまたま寄ってみたのがこちらのワイナリーでした。
見学と試飲の機会は本当に偶然で、思いがけずモンテスキューとワインの結びつきについてよりよく触れられたのは幸運でした。
 
 