Last Updated on 2026年1月17日
約1週間のパリ滞在中、13区にあるStation F を訪れました。

Station Fは世界最大級のスタートアップ・キャンパスとして、起業家の他にも投資家、企業や行政、大学などが集まっている施設です。
起業家たちが働くためのインフラが整えられた空間で、パリのもうひとつの顔が鮮明に見えてきました。この記事では、そんなStation Fや、訪問を通して見えてきたフランスのスタートアップ事情についてご紹介します。
Contents
Station Fへの訪問理由
フランスは起業支援が手厚いとよく言われますが、どこで誰が、どんな順番で相談し、行政や投資家とどのくらいの距離でつながっているのか。起業のプロセスがどう回っているのかは、現場を見ないと掴めません。
私自身、起業に興味があり、学校ではアントレプレナー系のクラブに所属しています。また、学校が Station F に拠点を置き、起業家育成、支援に関わる取り組みを行っているため、クラブ活動の一環として現地で関係者の話を聞ける機会がありました。
Station Fとは?個人の発想から生まれた巨大なキャンパス
Station F は、通信会社 Free の創業者 Xavier Niel によって設立されたスタートアップ向けのキャンパスです。13区にあり、パリに2か所ある国立図書館のひとつ、フランソワ・ミッテラン館に近接しています。
建物は1920年代末に開業した鉄道駅舎、 Halle Freyssinet を改修したもので、2017年にStationFとしてオープンしました。規模感としては以下の通りです。
- 延床面積 34,000㎡
- 最大1,000社規模のスタートアップが入居可能
3つのゾーンからなる施設
Station F は大きく Create / Share / Chill の3つのゾーンに分かれています。

最大の特徴は、起業家の「作業場」を核にしながら、相談・行政手続き・イベント・飲食などが建物内で完結するよう設計されている点です。一部の空間は街に開かれており、一般利用者が入れるエリアもあります。
Share は建物の正面側、つまりメインエントランスがあるエリアで、Station F の入口の顔にあたります。

ここに集められているのは、起業家が事業運営を進めるうえで必要になる相談機能と出会いの場です。
具体的にはApple、AWS、Google、投資家などが関わるメンタリング用のオフィスが置かれ、日常的に相談できる導線が作られています。さらに La French Tech Central として、30以上の公的機関(行政窓口)が集まる仕組みもここにはあり、起業家が手続きや制度面で詰まりやすいポイントをキャンパス内で処理できるようになっています。

イベント機能もShareの中心です。印象的だったのは、イベントが特別な日にだけ行われるものではなく、施設運営の中に組み込まれていることでした。年間で 600件以上のイベントが開催されると案内されており、カンファレンスというより、ネットワーキング、勉強会、ピッチ、説明会など、日々の活動として回っているイメージに近いです。設備としても、プライベート会議室が複数あるほか、約350人規模のオーディトリウムなど、イベントができる空間が用意されています。
ただし誰でも自由に入れるわけではなく、入居者に招かれている場合や、イベント・見学ツアーに登録している場合に限って入場できます。
Create:作業エリア

Create は、いわゆるスタートアップの執務ゾーンです。大きなオープンスペースにデスクが並び、規模としては 約3,000席 が用意され、30以上のスタートアップ・プログラムが同居するとされています。ここは原則として入居スタートアップのためのエリアなので、一般利用者は自由に入れません。基本は外から雰囲気が分かる程度に留まり、中に入れるのは招待されるなど限られたケースに限られます。
利用料金については、公式プログラムのフルタイム席が €269(税別)/ desk / month と記載されていますが、参加するプログラムやアクセスできるリソースの範囲によって条件が変わります。また、入居には事業内容などの審査を通る必要があります。
Chill:飲食・休憩のゾーン(一般利用可)
Chill は一般利用者にとって最もアクセスしやすいエリアで、ここが Station F の「街への入口」になっています。起業家にとっては福利厚生の要素が強い一方で、外部の人が Station F の空気を体験できる数少ない接点でもあります。

かつての駅舎を思わせる電車が展示されています。
イタリアンを中心に複数のキッチンが入り、バーやカフェも併設されています。規模としては 最大1,000人を収容できるとされ、昼食や夕食の時間帯は一般客にも開放されます。

また、こちらのゾーンにもイベント利用できるスペースが用意されており、食事だけでなく集まりの場としても運用されているようです。
産官学が同居する理由
Station F の特徴は、スタートアップだけが集まる施設ではなく、起業の成長に必要な機能が「同じ建物内で連続して起きる」ように設計されている点にあります。プロダクト開発、法務・労務、資金調達、採用、提携交渉は同時進行です。これらが別々の場所に散らばっていると、移動と調整がボトルネックになります。Station F はその摩擦を減らすために、産官学のプレイヤーを同居させています。
枝分かれしがちな行政関係業務の効率化
起業をすると、会社設立の手続き、税・社会保険、助成金申請など行政に確認が必要なことが必ず発生します。制度が整っていても、窓口が遠いと実務は止まります。そこで機能しているのが French Tech Central です。
French Tech Central は、スタートアップ支援La French Techの枠組みのひとつで、複数の行政サービスへのアクセスをまとめて近づける仕組みです。Station F 内では、起業家が相談枠を予約し、必要な手続きや確認事項にキャンパス内でアクセスできます。フランスの行政対応が「調べる→たらい回し→待つ」になりやすい局面で、相談の入口が一か所にあることは、仕事量が多くなりがちな起業家にとって実務上の価値が大きいと思います。
企業の提携と実務支援
Station F には、スタートアップ向けのプログラムを運営する大企業が入り、メンタリングや支援が提供されます。重要なのは、これが「講演会のような単発」ではなく、起業の通常運転の中に組み込まれている点です。相談したいテーマが出たときに、その場で面談を入れられる。そうした導線が、建物の中に用意されています。
資金調達を「偶然」から「仕組み」に寄せる
資金調達は最終的に個人の実力ですが、投資家に会うまでの距離は環境に影響されるものです。Financial Times の記事によると、Station F が資金調達中の企業リストを 毎月500人の投資家に共有しているとされています。また、Station F 企業は 直近3年連続で年間10億ユーロ以上を調達しているとされ、これはフランス全体の調達額の 約15%に相当するという推計も示されています。
この数字が示すのはStation F にいれば資金が集まるという保証ではありませんが、投資家側から見て、Station F は「案件が集まる場所」として認識されていること、また、スタートアップと投資家の接点が定期的に作られていること、そしてピッチや面談を載せる会議室・イベントスペースが同じ建物内にあり、このような機会が日常的にあることがうかがえます。
資金調達は運の要素を完全には消せませんが、「会うまで」を仕組みに寄せることで、確率を上げる作りになっています。
教育研究機関とつながる
グランゼコールや大学などの教育機関がキャンパスに関わることで、Station F の中に「学び」と「実装」が同時に存在します。起業は、現場の課題にぶつかって初めて学習が具体化します。授業やケーススタディで得た枠組みを、起業家の隣で確かめられる。逆に、スタートアップ側は採用や共同研究、実証実験の入り口として教育機関と接点を持てる。
つまり学の同居は、見学者にとっては「最新トレンドの勉強ができる場」であり、起業家にとっては「人材・研究・ネットワークへのアクセス」の装置になっています。
産官学が同居する価値は、起業の実務で起きがちな手戻りを減らすところにあります。行政の確認、専門家相談、投資家との接点、提携の糸口、採用や学術連携。起業の成長に必要な要素が一か所にまとまっていることで判断が早くなり、次の打ち手が出しやすくなる。Station F はその前提で設計された施設だと感じました。
どんなスタートアップがいるのか
Station F は入居・卒業を含めると企業数が膨大ですが、たとえばフランスではおなじみの食品成分アプリYuka は、2017年の創業期にStation Fに入居していたようです。
また、AIスタートアップの Hugging FaceはStation F 初のユニコーンになったアルムナイとされており、オープンソース由来のAI企業がここから育ったと公式サイトに紹介されています。
イギリスのフィナンシャル・タイムズによると、Station F が 月に50社の新規スタートアップを受け入れていると報じています。出入りが一定数ある前提でコミュニティが回っている、という姿がみえてきます。
さらに、Station F は毎年11月に「キャンパス内1,000社超から選ぶ上位40社(上位4%)」として Future 40 を発表しています。選ばれた企業は資金調達・採用・事業機会につながる機会を得る仕組みがあります。たとえば2024年の公式発表では、40社中21社がリピート起業家(2回目以降の創業者)で、国籍も15以上に及んでいます。直近6か月の平均チーム成長率は約214%とされ、採用を含めて一気に伸びるフェーズの企業が多いことが読み取れます。領域は Productivity Tools、ClimateTech、Infrastructure、BioTech が多く、AIは共通技術と位置づけられ、40社中34社が中核にAIを据えている、とされています。
訪問の感想
私が訪れたのは週末前の金曜日だったためか、人はまばらで落ち着いた印象を受けました。スーツ姿はほとんど見かけずみんなカジュアルな格好で行き来しており、オフィスにいるという感覚があまりありませんでした。
また、施設内はかつて駅舎の重厚な骨組みが残っており、高い天井から光が差しながらも長い通路の両面にガラス張りのオフィスや箱型の会議室、カラフルなモニュメントが所々に配置されており、ここは仕事場というよりも美術館のような、クリエイティブな空間という印象が強く残りました。
観光では見えてこない、パリの新しい顔を垣間見た気がします。
これを機会にフランスでの起業についても調べましたので、あとでまとめて記事にしたいと思います。
